肥前吉田焼の未来を真剣に考えたデザインコンペ審査会

photo / text = ハマノユリコ

応募総数167作品!デザインのプロが半数以上を占めた本格的なコンペティション

「小さな磁器産地、吉田焼の未来を拓く」をテーマに、肥前吉田焼産地で初めて開催されたデザインコンペティションの審査会が、2016年11月15日、16日の2日間にわたり行われました。

知名度のない肥前吉田焼産地で行われた初めてのデザインコンペにも関わらず、全国から集まった応募総数はなんと167作品!応募者はフリーランスやインハウスですでにデザインに携わっている方が半数以上を占め、海外からの応募もちらほら見受けられました。応募者の皆さんの真剣な思いを受け、窯元ほか運営スタッフも今更ながら本格的なデザインコンペの開催を実感し背筋を伸ばします。

デザイン、建築、小売り、流通、メディア、作り手などさまざまなジャンルから6人の審査委員を迎えた審査会では、「実現する可能性の高い商品企画か」「吉田焼らしさをどう捉えるか」「市場性や販促効果、話題性が見込めるか」「デザインの革新性、創造性があるか」などを基準にコンセプトシートの審査を行い、グランプリ1点、準グランプリ1点、優秀賞4点、産地賞4点の計10点の受賞作品が決定しました(※)。審査委員の多角的な視野が生かされた審査会の様子をレポートします。
※審査基準の観点で準グランプリは2点から1点に、優秀賞は2点から4点に変更となりました。

肥前吉田焼デザインコンペティション審査会

 

実現可能性・市場性・創造性とともに、肥前吉田焼らしさをどう捉えるかが課題

11月15日午後、審査会会場となる肥前吉田焼窯元会館の会議室に167点にのぼる応募作品のコンセプトシートと模型等のプレゼンテーション品をずらりと並べ、審査委員の到着を待ちます。

今回審査委員を務めていただくのは、h-concept代表の名児耶秀美さん、OpenA代表の馬場正尊さん、Discover Japanプロデューサーの高橋俊宏さん、ローヤル物産代表の辻武博さん、NEW TIME(中国)のディレクターArk Xieさん、肥前吉田焼窯元協同組合理事長の江口直人さんの6人。会場入りした審査委員の皆さんは、まず応募作品の多さに驚かれた様子でした。水玉の茶器が肥前吉田焼の代表作であることから、水玉をモチーフにした作品が目立ちましたが、テーブルウェアだけでなく、フラワーベースや照明、ステーショナリー、玩具、オブジェなど創造性溢れるさまざまなアイテムの作品が集まりました。

一次審査ではまず机の上に並べられた応募作品をじっくりとご覧いただきながら、審査基準に照らし合わせ作品数を絞り込みます。審査にあたり先入観をもたないよう、応募者のプロフィールは伏せた状態で、作品だけを見て判断できるように配慮しました。審査委員は約2時間かけて各々気になったものに付箋をつけていき、167作品から約20作品が一次審査を通過。一日目はここで終了です。一旦頭を整理し、翌日クリアな目で再度作品と向き合うことにします。

肥前吉田焼デザインコンペティション審査会

グランプリに求められるのは、これからの肥前吉田焼の方向性を示す強いメッセージ性

11月16日は午前中から二次審査をスタート。一次審査を通過した約20作品を改めて見ながら、今回の商品開発の作り手となる各窯元や開発のサポートスタッフを交えた意見交換を行いました。当初は審査委員6人の話し合いで審査を進める予定でしたが、「⽣産を担う窯元の皆さんの意⾒を尊重したい」との思いを受けてのディスカッションに、作り手の意欲も高まります。

窯元からは主に、想定される成形方法について説明があり、審査委員が心配する実現の可能性について議論が行われました。これまで作ったことのない形状や機能をもつ作品も含まれていましたが、「やってみたことのないものづくりにも挑戦してみたい」と前向きな窯元たちの意見に後押しされ、製作の難しさを理由に審査対象から外した作品はひとつもありませんでした。その他のさまざまな観点から絞り込まれた十数点が最終審査に進みます。

審査委員長の名児耶さんは最終審査にあたり「グランプリに選ばれた作品は、これからの肥前吉田焼の方向性を示す、強いメッセージ性を持つことになる」と指針を表明。改めてこのコンペの重要性と審査の重みを肝に命じ、慎重に議論を重ねながらグランプリ、準グランプリ、優秀賞、産地賞が決定されました。

 

暮らしに寄り添い、ちょっぴり豊かにしてくれるプロダクト

肥前吉田焼デザインコンペティション審査会グランプリに選ばれたのは、プロダクトデザイナー・濱名剛さんが提案した「PRIVATE ROASTER」です。コーヒー豆を自宅で焙煎するという新しいライフスタイルを提案するコンセプトと、道具としての美しい形状が審査委員の心を捉えました。

濱名さんは「肥前吉田焼は目立ちすぎず自然に人々の生活に必需品として馴染む、広告的ではなく実用的な道具として存在しており実にスマートである」と分析し、「その印象を大事に伝えることのできる、日用品でありながら生活を少し豊かに変化させるきっかけとなるプロダクト」としてこのPRIVATE ROASTERを提案しています。

審査会中、常に上位に選出されていたPRIVATE ROASTERですが、道具として直火にかけることから耐熱性のある素材や製造方法の開発などが必要となり、今吉田にある技術や設備では難しいという課題がありました。しかし、「既成概念にとらわれない新しいものづくりにチャレンジする肥前吉田焼を伝えるためにも、あえて取り組んでみたい」と窯元協同組合理事長の江口さんも意欲を示し、満場一致でグランプリの獲得となりました。

吉田地区では嬉野茶を特産品としていることもあり、お茶を煎るという用途でも提案できれば、より吉田らしさや肥前吉田焼のストーリーを重ねることができるのではないかと、今後の展開にも期待が集まった作品です。

 

肥前吉田焼のアイデンティティを示す新たな挑戦のスタートライン

準グランプリは、midi(今村俊太さん、水口正夫さん)による観葉植物用のプランター「Roll pot」が受賞。鉢皿を軸に鉢を回転させて植物に日光をあてる空間演出が評価されました。

優秀賞は、親子で晩酌というストーリーを提案した酒器「OYAKOSYUKI」、2種類の調味料のコンビネーションを楽しめる器「combi」、縁起物の小判をモチーフにした「小判皿」、ボロノイ図形を元に考え抜かれたパターンの「ボロノイプレートシリーズ」の4作品が受賞。形状の美しさだけでなく、ストーリー性や機能性、クスッとさせるアイデアものなど、使ってみたいと思わせるバリエーション豊かな受賞作品が揃いました。そのほか産地賞4作品を含め、全10作品が入賞となっています。

肥前吉田焼のアイデンティティを模索し、これからの肥前吉田焼のあり方を共に考えるきっかけを求めてコンペを実施してきたこの数ヶ月。募集を開始した頃の「肥前吉田焼って初めて聞いた」という状況から、これだけ多くの方とつながり肥前吉田焼に思いを馳せていただいたこと、そして魅力あふれる作品が吉田に届けられたことに感動しています。また、審査に先立ち、陶⼟屋、⽣地屋、型屋、窯元などを見学して臨んだ審査委員の皆さんも、産地の現状を理解した上で、この2日間、吉田の未来について真剣に考え、産地の皆と向き合ってくださいました。中にはバイヤーやプレスなどの担当者をご同伴いただいた方もあり、今後の販売に向け心強いアドバイスもいただきました。

肥前吉田焼デザインコンペティション審査会

「受賞作品はすべて商品化」を掲げる肥前吉田焼デザインコンペティションは、今日からまた商品開発という新たな挑戦のスタートラインに立ちます。

受賞した各作品には担当の窯元がつき、コンセプトやデザインの調整、製造方法の検討など、生産に向けた協議を行います。デザイナーとともに産地の職人やサポートスタッフがプロジェクトチームを組んで行う初の商品開発です。生まれ変わろうとする肥前吉田焼のこれからに是非ご期待ください。

受賞作品は、2⽉中旬の試作品完成を目標とし、3⽉には佐賀県内および東京都内で商品発表会の開催を予定しています。

●肥前吉田焼デザインコンペティション結果発表
受賞10作品のデザインコンセプトや審査員コメントをご覧いただくことができます。
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